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第21回 教文館「こちわしょ」

東京・銀座の真ん中に、こんなすてきな本屋さんがあることを、それも、一般書だけでなく、洋書・キリスト教書・児童書の専門売り場にカフェやホールまでをそろえた、まさに「本の館」と呼びたくなるような本屋さんがあることを、本屋好きとして本当にうれしく思います。

今回紹介する教文館は、明治創業の老舗書店。銀座に用事のあるときは、必ず立ち寄ることにしている、大好きなお店の1つです。

同店発行のフリペが、今回紹介する「こちわしょ」。同店1・2階の和書部で発行されているので「わしょ」なんでしょうか。ひらがな表記ということもあって、本屋フリペとしてはなかなかにユニークなネーミングと字面になっています。

「こちわしょ」、内容は、店内のフェアの紹介、今月の1冊、店長のひとことと、シンプルなつくり。奇をてらったところのない、本屋フリペの王道といっていいストレートな内容で、デザインも読みやすくまとまっています。

A4判横置き両面で、どのように使い分けられているのかはわかりませんが、3つ折りになっているときと、2つ折りになっているときがあるようです。

写真右下が3つ折りのNo.46(2017年3月号)、他3つは2つ折りの号。

上の写真、右が本稿執筆時点での最新号、No.55(2017年12月号)。クリスマス仕様になっています。昨年もこの時期はクリスマス仕様でしたから(写真左、No.43)、毎年12月は定番なんでしょうか。同店はキリスト教系のお店ということで、この季節はお店全体がクリスマスモードに包まれています。書籍の売り場ではそれぞれ関連のフェアが展開されているほか、9階にあるウェインライトホールでは毎年恒例のクリスマスグッズのフェアが開催されています。

同店は、ペーパーを使った情報発信に力を入れているようで、「こちわしょ」のほかに、「おすすめ本●月」という本の紹介をまとめた書評集のようなフリペもあります。月刊で、●のところには発行月の数字が入り、副題(のようなもの)が毎回添えられています。No.74(2017年12月号)には「おろかなる犬吠えてをり」とあります。「除夜の鐘」と続く、山口青邨のよく知られた俳句の一部ですね。過去の号では、歌詞の一部が引かれていたりするものもありました。セレクトに、選者の好みやセンスが感じられますね。

本の紹介といっても、ひとことコメントのような簡単なものではありません。A4判で4ページ。1ページに2冊を取り上げ、1冊につき、700〜800字ほどを割いて、しっかりと紹介。新聞で紹介された本には新聞書評掲載情報も添えられています。文章を手がけているのは、同店スタッフの伊藤豊さん。

これだけでもけっこうな分量ですから、「こちわしょ」と「おすすめ本」の両方を継続定期刊行していくのは大変なことのはずですが、先日(2017年12月初旬)訪問したときは、店頭で「2017 読書の収穫 話題の本」というフェアが開催中で、そのフェアのペーパーというか冊子まで配布されていました。

「おすすめ本」に似た感じのフォーマットで、A4判で20ページにもおよぶもの。「おすすめ本」と同じく伊藤豊さんのお名前があります。フェアのペーパーがつくられること自体はめずらしいことではありませんが、複数の定期無料紙を発行しているお店で、さらにこのボリュームのものをつくって発行するというのは、そんなに簡単にできることではないはずで、情報発信への力の入れぶりには驚かされます。

同店は、前述の通り、ホールやカフェ、キリスト教書・児童書・洋書などが別フロアにあるマルチフロア型店舗ですので、各フロアの案内をまとめたお店全体の紹介パンフレットもあります。こちらは、ワープロや手描きでつくったものではなく、きちんとデザインして印刷された立派なつくりのものになっています。こちらも、この季節配布のものはクリスマス仕様になっていますね。

フロア・売り場が異なりますが、このほかにも、子どもの本関係のフリペをまとめて紹介した第4回で取り上げた「ナルニア国だより」があります。しかも、6階、児童書売り場の「ナルニア国」では、下の写真のように、店内のイベントや展示の案内チラシにも力を入れていて、お店を訪ねると、入り口のところに、常に、複数のイベント案内チラシが並んでいるのです。

1つのお店、それも非チェーンの単独店で、これだけの種類の無料配布物が常時つくられている例は、全国的に見てもめずらしいのではないでしょうか。

教文館・ナルニア国は、店内を散策しているだけで楽しい気分になれるお店です。それは、棚の高さや角度、棚の配置、本の並べ方などに工夫が行き渡っているから、というのは当然あるとして、それだけでなく、店内のあちこちで配布されている無料紙誌から、情報発信に労を惜しまない同店の姿勢というか熱意というかが自然に伝わってくるからではないかと、そんなふうに思うのです。
 

発行店:教文館
頻度:月刊(「こちわしょ」「おすすめ本」)
 

お知らせ:
本連際第8回では、東京・吉祥寺の書店5店(BOOKSルーエ、パルコブックセンター、啓文堂書店、ジュンク堂書店、ブックファースト)の書店員有志の集まり、吉祥寺書店員の会「吉っ読(きっちょむ)」が作成・発行しているフリーペーパー「ブックトラック」を紹介しました。その吉っ読が、吉祥寺の新刊書店の情報をまとめた地図「吉祥寺書店マップ2018年版」が完成しました。配布店などの詳細は、当方のブログ「空犬通信」の記事をご覧ください。

sorainu_ico空犬太郎(そらいぬたろう)
編集者・ライター。主に新刊書店をテーマにしたブログ「空犬通信」やトークイベントを主催。著書に『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会)、『本屋図鑑』『本屋会議』(共著、夏葉社)、『本屋はおもしろい!!』『子どもと読みたい絵本200』『本屋へ行こう!!』(共著、洋泉社)がある。
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