「好きな仕事をして食べてゆく」の先
本は、読むよりも作るほうが好きだ。
おばあちゃんになるまで本を作って食べてゆきたくて、東京から出身地の兵庫県姫路市に戻って2016年にひとり出版社「金木犀舎」をはじめた。
なぜなら、自分で経営しないとそのうち定年がきて辞めさせられてしまうからだ。
故郷には書籍の出版社など昔から存在しなかったから、それが吉と出るか凶と出るかは賭けだった。
ありがたいことに吉と出たらしく、2年目から(商業出版だけで、ではないけれど)ぎりぎり食べてゆけるようになって、スタッフも少しずつ増え、4年で4人になった。
わたしは20数年、出版業界にいるけれど、営業経験がほとんどない。
そのせいで金木犀舎の営業力は軟弱で貧弱だ。
下手くそに試行錯誤する様子が周囲からすれば見ていられないのだろうか、先輩方からアドバイスをたくさんもらい、「紹介してあげる」と、あちこちからいい話をいただく。
なんともハッピーな、甘えた会社である。
とにもかくにも、「好きな仕事をして食べてゆく」というフリーランス的な当初のもくろみは、そろそろ達成したと言ってもいい気がしている。
じゃあ、これからどうするのか。
正直、すんなりここまで来ると思っていなかったのだ。
作りたい本はたくさんあるけれど、法人としてのこの先のビジョンがなんともあやしい。
事業は社会に貢献してなんぼである、というようなことがビジネスの教科書には書いてあって、これまでは全然響いてこなかったのに、去年くらいから少し響くようになった。
そろそろ次のステージに入るときが来ているらしい。
地方にあるちいさな出版社ができること。
思いつくことはいくつかあるが、「これ!」という核のようなものはまだ見つかっていない。
「食べてゆく」の先ばかり見つめていたら、あっという間に食べてゆけなくなりそうだけれど。
足元を何度も確かめながら、そろりそろりと進んでいきたいと思っている。