BOOKS NOT BOMBS.
ひとり出版社である花束書房では、フェミニストの視点で歴史ノンフィクションを4冊刊行しています。
同ジャンルの文筆家でもあり、2025年は自著『ふたり暮らしの〈女性史〉』(講談社)と、『戦争と芸術の〈境界〉で語りをひらく 有田・大村・朝鮮と脱植民地化』(山口佑香、チョン・ユギョン著) の2冊を出版しました。自著には取材や文献調査で時間がかかるので、亀の歩み(&青色吐息)で出版しています。
2026年は初めて新刊を出さない年ですが、戦争の時勢を受けてか既刊がよく動いています。例えば、1冊目に出版した『ウィメン・ウォリアーズ はじめて読む女戦記』 (パメラ・トーラー著、西川知佐訳)。古今東西、戦った女性たち(バイナリーでないジェンダーの人物も多々登場)を描く読み物ですが、著者がフェミニスト歴史家とあって、従来の語られ方(語られなさ)や表象など、切れ味鋭く批評していて読み応えがあります。「戦争」といっても、時代や国、地域によって事情はさまざま。侵略された側の女性たちの闘いや抵抗、扮装、革命などなど、男性目線の、さらに日本の歴史観では絶対に読めない「戦記」なのです。
2冊目の『未来からきたフェミニスト 北村兼子と山川菊栄』 は、昨年からまたじわじわと売れています。北村兼子が昨年、母校の関西大学から100年越しで卒業証書が発行されたことが大きなニュースになったためです。
もともと花束書房は、1920年代後半から火花のように活躍したフェミニスト、北村兼子について発信することから始めました。関西大学初の女子学生としてドイツ刑法を学んだ兼子は(『虎に翼』の主人公よりやや早いです)、新聞に寄稿した論文で注目を集め、在学中に大阪朝日新聞の記者に。瞬く間にスター記者となりますが、あまりに鋭く痛快な筆致が男性記者の嫉妬を集めて性的被害まで受け、辞職に追い込まれました。それでも国内外で果敢に発信し続けたものの、やはり男性の何倍も働かざるを得ず、過労死するようにして急死。女性参政権・立法権を中心に、いまでいうSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・アンド・ライツ)を訴え、朝鮮独立運動や水平運動(部落解放)にも共鳴するなど、当時としては異色のフェミニストでした。満州事変の年に27歳で亡くなるまで軍拡に反対し、やはり戦争協力をしないまま思想を守った山川菊栄と似た魅力を持つふたりを、対談、エッセイ、論考などで光を当てたのが前掲書です。知る人ぞ知る存在でしたが、100年前には女子ゆえに発行されなかった卒業証書が出たとして、昨年、各種大手メディアが報道しました。なぜか私が周囲から「おめでとう」と祝福され(笑)、地道に2017年頃から発信してきた甲斐があったかな、と思ったものです。
兼子は晩年、飛行士を目指して猛訓練中でしたが、その際、戦争と近い位置にあった飛行機を虐殺の道具に使うことに対して痛烈に批判していました。当時の兼子の言葉が、いままたリアリティを帯びています。
* *
長びくバックラッシュに、極右家父長政権の腐敗。日本のいまの政治と社会のゆがみは、日本が植民地支配に始まる戦争の歴史を反省してこなかったからに尽きると思っています。自著を含めた出版の仕事では、その意志を伝えたい思いで進めてきました。
2024年に出版した『帝国主義と闘った14人の朝鮮フェミニスト 独立運動を描きなおす』(尹錫男画、金伊京著、宋連玉・金美恵訳) は、パレスチナ解放のために活動する、とりわけ若いフェミニスト、アーティストからの支持が目立つなど、とても熱い売れ方をしてきました。植民地朝鮮の状況はパレスチナの現況とよく似ていましたから、驚きとともに「捨てたもんじゃないな」とも思いました。この本は、前述の『北村兼子』にて、山川菊栄に学んだ朝鮮人の女性留学生(黄信徳、朴順天)についてご執筆いただいた宋連玉さん経由で、共訳者の金美恵さんからご紹介いただき出版に至りました。韓国のフェミニズムアートの先駆者である尹錫男さんが描く女性独立運動家たちの姿に引きつけられますし、基本的な権利を奪われそうないま、当時の朝鮮人女性たちの闘いは、真の民主化に向けて確実に力をくれます。
政治・経済・文化芸術といった「正史」をとらえ直す視点で社会の未来を考える本は、これからますます必要になるのではないでしょうか。