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ひとりにならない

先日、京都・亀岡のイベントにタバブックスとして出店しました。関西圏のイベントの際は、勝手に売り子に加わるのですが、今回は完全にひとり。代表の宮川さんと相談して、イベントの空気感に合いそうな本を数冊、持って行きました。

「今日は東京から来られたんですか?」
「おひとりで全部つくられたんですか!?」
何人もの人が、目を丸くして尋ねてきます。「東京・下北沢で、ひとりで始めた出版社です」という説明パネルを飾っているので、無理もありません。私じゃなくて代表のことですーとか、私は関西在住のスタッフなので今回来ましたとか、いや、社員とかでもなくて……フリーランスの編集者なんですが仕事のひとつとしてタバブックスのこともやらせてもらってますーとか、ややこしくてすみませんと思いながら適当に返事をしました。

10、20代の頃は、自分のことを説明しないといけない状況が嫌いでした。とくに関西に住んでいると、「ナニワってことは大阪ですか?」としょっちゅう聞かれます。生まれ育ちは鳥取です。取材や打ち合わせではアイスブレイクになってありがたいと思うこともあれば、宅配便の配達員にまで言われると面倒くさく思えて、仕事のときは変わらず名乗るが結婚するなら夫の姓に変えると、なんの躊躇もなく変更しました。もちろん選択的夫婦別姓を早急に導入すべきと考えていますが、そういうパターンの人間もいる(と思います)。説明せざるを得ないことが増えれば増えるほど面倒ですが、生きているぶん、大小少なからず複雑さを孕んでしまうものなのでしょうか。

ここ数年は、こうしたさまざまな人間や社会の複雑さにどう向き合い、どう言葉にするのかが自分にとってひとつの課題になっているように思います。
たとえば、「戦争反対」という想いが万人にあるとする。けれどこの4文字の内側にある思想や、そこにいきつくまでのバックグラウンドはみんな違うわけで、それを「多様」とか「どっちもどっち」というような言葉に変えず、どう編むことができるのか。大きな構造から小さな側面まで社会をつぶさに見ていくこと、まず自分はどう考えるのかを言葉にすることが必要で、編集とはなんと途方もない仕事なんだ、この体力と脳のキャパでは一生成し遂げられないかもしれない……とさえ思わされます。

2024年12月に、タバブックスより刊行した『若者の戦争と政治 20代50人に聞く実感、教育、アクション』は、私にとってこうした実践のひとつでもありました。タイトルの通り、当時20代(1994〜2004年生まれ)の50人に、戦争や政治について考えることや、それらを教わった教育とはどんなものだったのかを尋ねた1冊です(書籍情報もぜひ、ご覧ください!)。

見本誌と一緒に送る手紙を書いていたとき、ふと「小さな声でも束になって」という言葉が浮かびました。今を生きる中で直面する複雑さと向き合うのは、ひとりではできないんだな、とも。ごく当たり前のことだと思うけど、無意識的に競わされて、自己責任を負わされやすい社会構造に生きているからこそ、ひとりにならないようにする。そんなことを改めて肝に銘じながら、良い仕事をやっていきたいと思っています。

タバブックスの本の一覧

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