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学術書出版社の編集実務あれこれ

 当社刊の山崎隆広さんの著書『音楽雑誌と政治の季節――戦後日本の言論とサブカルチャーの形成過程』(2024年)が、第46回日本出版学会賞を受賞しました。5月31日に日本出版学会「2025年 総会・春季研究発表会」があり、そこで開催された本書の授賞式に参加しました。

 山崎さんとは完成稿に至るまでにいろいろな意見交換をしましたし、最後に音楽評論家の北中正和さんへのインタビューを収めるなど、山崎さんの考えをもとにさまざまな工夫を施しました。このような賞をいただけて光栄で、とてもうれしく思いました(山崎さん、あらためて「おめでとうございます!」)。
 

 授賞式後に、ワークショップ「出版フィールドワークプロジェクト――もうひとつの出版学」を聴講しました。登壇者が出版社の営業のあれこれを語るという内容で、みなさんの軽妙な語り口とインタビュアーのお二人の巧みな進行もあって、とても勉強になりました。内容は出版営業の「実務・実態」や「考え方」がその中心で、学ぶところが多くありました。
 そこで、当社の編集実務の実際を少し書いてみようと思います。

編集実務とは

 当社は、人文系の学術書や評論を中心に出版しています。編集・制作の実務は出版社ごとにスタイルがあり、社内で本文の組版やカバーデザインをおこなう社もあれば、それらを外部の制作会社やデザイナーに業務委託して、社内では文章の校正や校閲(ファクトチェック)に注力する社もあります。それはそれとして、企画を立てて執筆を依頼し、原稿(草稿)を読み、著者と意見交換しながら完成稿に仕上げていくというプロセスは、どこの出版社でもおおむね同じだろうと思います。
 と書いたものの、ほかの出版社が何をもって編集実務と考えていて、実際にどのような編集作業をしているのか、校正はどのようにしているのか、ゲラで著者とどのようなやりとりをしているのか、などは意外とわかりません。
 最近では、牟田都子『校正・校閲11の現場――こんなふうに読んでいる』(アノニマ・スタジオ、2024年)が出版されたり、SNSで事例が上がったりして、そのあたりが一部共有されて知ることができる機会が増えました。
 そこで、当社の編集実務や業務管理について、少し絞って以下にまとめます。

業務やデータの共有について

 当社では、日々の業務をウェブアプリを使って社内全体で共有しています。1週間ごとのボード内に各自が仕事の予定を入れます。会社の業務管理という面がありますが、それと同時に各自の業務の可視化や仕事の予定の組み立てなどで活用しています。各自の「TODOリスト」を全体で共有しているというイメージでしょうか。
 原稿や販売データなどの各種データの管理・共有は、クラウドサービスを使っています。自社でサーバーを準備するコストと手間、それに割く人手を考えて、サーバーは立てていません。クラウドサービスは細かな管理やメンテナス、保守を外注できるので負担が少ないのですが、年間の費用はそれなりにかかります。それと、1つのクラウドサービスに会社のデータを保管するメリットとデメリットがあるので、導入するときは慎重に検討しました。
 だいぶ前、15年以上前は、社内のパソコンを有線LANでつないで、NAS(ネットワークHDD)でデータを管理して社内で共有していた時期もありました。バックアップを取るのが大変だったと記憶しています。当時と比べると、データ管理はだいぶ楽になりました。

編集実務について

 著者から完成稿を受け取ったところから考えてみます。まず、多くの著者はwordで原稿を作成して送ってくるため、当社ではそれをテキストファイルに変換します。wordからテキストへの変換でデータの形式が崩れたりするので(wordは独特な仕様があります)、それらは作業担当者が適宜修正し制作します。
 原稿をテキストファイルにしたら、特に学術書は書誌(出版物の情報)や注が多いので、出版物の情報を国立国会図書館のデータベースなどで校閲しながら形式を整えます。その後、数字や漢字・平仮名の表記を整えたり修正したりという原稿整理をおこないます。
 当社では原稿整理を施したテキストファイルをすぐにゲラに組むのではなく(例えばInDesignなどでページに組むのではなく)、テキストファイルのまま印刷して、それを「初校ゲラ」としています。その初校ゲラに鉛筆で文章案や質問を書き込んで、著者に送ります。初校ゲラの段階では著者もいろいろと修正したくなるようで、赤字が多くなりがちです。そこで、初校ゲラまでは社内でデータを動かせるようにしています。
 著者から初校ゲラが戻ったら、ゲラの赤字を直します。修正を終えたテキストファイルを、各種の図版データとともに外部の組版所やデザイナーに入稿して、組版ゲラを作ります。当社では、社内で本文の組版作業はしないので、多くのプロセスで外部の力を借りています。
 その後は、社内と著者、それぞれの校正を繰り返しながら、再校ゲラ、三校ゲラ、念校ゲラと進めて、印刷に回します。
 再校ゲラ以降のやりとりは、多くの出版社とあまり変わりがないと思います。校正のプロセスは、誤字・誤植を拾う以外に、事実確認をしたり、図表と本文の整合性をみたり(例えば表と本文で数字が合わないこともままあります)、注と注番号を照合したり、目次や柱を校正したり……という具合です。
 当社は、組版作業や装丁の制作を外部に依頼しているぶん、文章や内容の校正に時間を割くようにしています。半面でコストはかかるわけで、そのあたりをどう考えるかは出版社によって異なるのだと思います。

それ以外の制作について

 本文と並行して付き物(カバー、表紙、扉など)の進行もあります。デザインを社内で一括しておこなうか、外部のデザイナーの力を借りるか、その両方を活用するか、など、各社のバリエーションがあるようです。
 あとは、印刷所との交渉、スリップ(投げ込み)やバーコードの制作、電子書籍の制作準備(営業部との連携)、プレスリリースやイベントの準備など、編集・制作実務の範囲を広げて考えていくと実に多くの工程があります。
 そのあたりの効率がいい進め方は、出版社同士で情報交換したり、版元ドットコムのメーリングリストで各社が情報交換している様子を「勉強になるなー」と見ていたりしています。編集実務については、「知ったつもりになっていること」がまだまだあると思っています。

 当社の編集実務を少し文章化してみました。書いていて気づきましたが、もっと効率的に仕組みをアップデートできそうなプロセスもありますし、AI活用の余地はだいぶありそうです。また、こういった編集実務を共有できる場があると、よりいいのかもしれません。
 さまざまなツールを使い、編集実務を大切にしながら、原稿の内容に向き合う時間をもっと増やしていきたいと思います。

青弓社の本の一覧

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