パヴァロッティとぼく
アシスタント「ティノ」が語るマエストロ最後の日々
原書: Pavarotti ed io - Vita di Big Luciano - raccontata dal suo assistente personale
- ISBN
- 978-4-86559-220-7
- Cコード
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C1073
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教養 単行本 音楽・舞踊
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年9月30日
- 書店発売日
- 2020年9月28日
- 登録日
- 2020年8月24日
- 最終更新日
- 2020年9月28日
紹介
「神様から息子は授からなかったけれど、君はぼくの息子だ」
孤独なオペラ王と若きアシスタントの心あたたまる物語。
「ぼくのために働かないか」
ペルーの5つ星ホテルで働く青年ティノ。
それまでオペラを聴いたこともなかったホテルボーイに声をかけたのは、
世界一のテノール歌手だった──。
何十個ものスーツケースに詰め込んだ
タキシードとアロハシャツと食料と調理器具、
プライベートジェットでめぐる世界ツアー、
熱狂する聴衆と国家元首も参加するガラ・ディナー、
豪邸と別荘、花火まで打ち上げるパーティ、
度重なる手術と再起への飽くなき願望……。
「神に祝福された声」をもつ不世出の歌手ルチアーノ・パヴァロッティ(1935–2007)。
若くから数多くの伝説を生んだオペラの舞台に飽き足らず、
プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラスとの「三大テノール」公演、
ライザ・ミネリ、ボノ、エリック・クラプトンらポップスターたちとの共演でスタジアムを埋め尽くす聴衆を熱狂させ、
巨大なショービジネスの頂点に君臨した彼は、
晩年、深い孤独、醜聞に飢えたマスメディアの攻撃、そして絶え間ない身体の不調に苦しみながら、
ファンを喜ばせること、ファンに音楽の素晴らしさを伝えることに生命を燃やした。
「ファンこそぼくの人生の一部なんだ。もしいなくなったら心配になるじゃないか」
本書は、パヴァロッティが亡くなるまでの13年間、
もっとも信頼し、そば近くに置いて心を通わせた「最後のアシスタント」による回想録。
潑剌としてみずみずしいユーモアあふれる文体から、素顔のパヴァロッティの人間的魅力が伝わってくる。
目次
序曲 Ouverture
リハーサル Le prove
1 出会い
2 パヴァロッティ以前
3 パヴァロッティがリマに来た
4 初めて見るコンサート
5 旅立ち
第一幕 Atto primo
6 パヴァロッティのもとへ
7 熱狂のリオ
8 アマゾンからニューヨークへ
9 ニューヨークの日々
10 ブエノスアイレスでの乾杯
11 コロンビアの歓迎
12 ジャマイカの風
13 METの初日
14 ロンドンの『仮面舞踏会』
15 メラーノでダイエット
16 ロンドンの楽屋で
17 マイ・ウェイ
間奏曲 Intermezzo
18 パヴァロッティの友達
19 離婚
第二幕 Atto secondo
20 エリック・クラプトン
21 東京のペンネ・アラビアータ
間奏曲 Intermezzo
22 レディDの死
23 ピースメッセンジャー
24 膝の手術
25 ペーザロでのリハビリ
26 生き返ったパヴァロッティ
間奏曲 Intermezzo
27 同窓生
28 ぼくの太陽
29 逃亡者
30 サプライズ
31 ラッキーのお返し
32 母親との別れ
間奏曲 Intermezzo
33 METスキャンダル
34 父親の死
35 引退発表
36 モデナの鐘楼
37 喜びと悲しみと
38 新しい家族
39 結婚式のトランプ
40 パナマ帽
41 さよならツアー
42 招かれざる客
43 七〇歳のバースデイ
44 トリノ・オリンピック開会式
第三幕 Ultimo atto
45 最後のヴァカンス
46 脊椎の手術
47 希望
48 冷酷な知らせ
49 イタリア帰郷
50 生きることへの熱意
51 思いがけないお祝い
52 家族
53 グラニータ
54 別れ
幕 Sipario
〈パヴァロッティのアシスタントの覚え書き〉
日本語監修者あとがき
訳者あとがき
前書きなど
訳者あとがき
パヴァロッティといえば誰もが知るオペラ界のスーパースターだ。彼がどれほど偉大な歌手であったかについては専門家にお任せするとして、ここでは一介のオペラ・ファンがどのようにして本書の著者のティノと出会い、なぜこの本を紹介したいと思ったかを記しておきたい。
本書『パヴァロッティとぼく──アシスタント「ティノ」が語るマエストロ最後の日々』(原題はPavarotti ed io ― Vita di Big Luciano ― raccontata dal suo assistente personale)はパヴァロッティの没後一〇年の二〇一七年にイタリアで出版された。著者エドウィン・ティノコ(Edwin Tinoco[ティノTino])の名を知る人はほとんどいないだろう。彼はペルーの五つ星ホテルで働いていた一九九五年に客として訪れたパヴァロッティに出会い、その後二〇〇七年にパヴァロッティが亡くなるまでの一三年間、パヴァロッティが世界中どこへ行くときも、パーソナル・アシスタントとして常に付き添っていた青年だ。本書は、もっとも近くにいてもっとも献身的に仕えてきた人物によって、偉大なマエストロへのオマージュとして書かれた、素顔のパヴァロッティの物語である。
世界中をとりこにした歌手の人生の終盤は、三四歳も年下の女性との再婚や子どもの誕生、引退、闘病と波乱に満ちていたが、ティノはその晩年を知る貴重な存在である。パヴァロッティがどれほどティノを信頼していたかは、亡くなる間際のこの言葉に表れている。
「どんなときにもけっして離れずについてきてくれてありがとう。君のことは息子のように思っていたのだよ。神様から息子は授からなかったけれど、君はぼくの息子だ」。最後にパヴァロッティがティノに伝えたのは、感謝と愛の言葉だった。
私がティノと初めて会ったのは二三年前のことだった。パヴァロッティの熱烈なファンだった友人が、プライベート・アシスタントと知り合いになったから、パヴァロッティの夏の別荘のあるペーザロに行けばパヴァロッティに会えるかもしれないというので、私は彼女のお伴で出かけたのだった。ペーザロは毎夏ロッシーニ音楽祭が開かれる美しい海辺の街である。浜辺から見上げると、ひまわりの咲く丘の上にその別荘があった。あいにくそのときの別荘には元イギリス王室のゲストが訪れていたため、パヴァロッティとの面会は叶わなかったが、そのアシスタントがティノだった。
初めて会ったティノは、誠実そうな青年というのが第一印象だった。ティノのはからいで、その後の来日公演では楽屋でパヴァロッティに会えるという幸運にも恵まれた。二〇〇七年の夏にペーザロに行ったときは、療養中だったパヴァロッティの様子を聞くと、ティノはだいじょうぶ、よくなっているよと答えてくれた。しかしそのときすでに余命宣告を受けていたことを、本書であとから知った。
パヴァロッティが亡くなったあと、二〇一七年になってティノが本を出版したことを知り、さっそく手に入れて読んだ。数々のエピソードからは、パヴァロッティがまるで目の前にいるかのように生き生きと感じられて、どのページにもティノのパヴァロッティに対する愛と尊敬があふれていた。私はこの本を日本で紹介することができたら、すばらしいオペラの世界への扉を開いてくれたパヴァロッティや、いつも心にかけてくれたティノにもささやかな恩返しができるのではないかと思った。この本をとおして、パヴァロッティの晩年の真の姿を知り、その人間的魅力を再発見していただければ幸いである。