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障害のある・なし関係なく

 「人生の中で今が1番幸せです」と言い切る70歳の統合失調症を持つ同僚.彼は,22年間精神科病棟に閉じ込められ(いわゆる社会的入院),自分の人生はここで終わるのだと諦観していました.退院したのは今から8年前,もう60歳を過ぎていました.今,彼は,自分自身の体験をもとに講演活動を行い,弊社の「やどかりブックレット・当事者からのメッセージ」シリーズの編集委員も務めています.企画,取材,執筆をこなし,今年はついに,自身の体験を書き下ろした書籍を出版しました. (さらに…)

「自立妨げ法」の「障害者自立支援法」

 やどかり出版は,「精神障害者福祉工場」という「精神障害者」を雇用する社会福祉施設の中にある出版社です.障害のある人とない人が企画から編集,制作に至るまで一緒になって本を作っています.運営母体は,社団法人やどかりの里という,地域で暮らす精神障害のある人の生活を支援する民間団体です. (さらに…)

「私らしい生き方」を決めるのは私のはずだけど

とにかくめまぐるしい勢いを感じる.ここ数年で,矢継ぎ早に,日本という国のあり方の根本を問うような政策,施策の改変が打ち出されている.それは,障害者福祉の分野でも同じだ.
2004年6月には,経済財政諮問会議の「骨太方針2004」の中で,障害者福祉に関わる部分としては,「『人間力』の抜本的な強化(障害者の雇用・就業,自立を支援するための施策の充実強化)」が示された.10月には,社会保障審議会障害者部会にて厚生労働省から「今後の障害者保健福祉政策について(改革のグランドデザイン案)」が示された.今までの障害者福祉施策の大きな見直しで,障害者の今後の暮らしに大きく影響するものだ.
案の内容については,障害種別をこえた福祉事業に関する法(2005年2月国会提出の障害者自立支援法)が作られるなど「よい」と思われる部分もあるが,気がかりな点も多い.その気がかりな点の中のほんのいくつかを挙げると,利用者の費用負担を「定率負担」(応益負担)に切り替えることがあり,負担を求めるにも関わらず「所得保障」にまったく触れられていないことがある.
また,大規模な見直しにも関わらず,当事者のニーズや生活実態などの基礎データが不備であるままに政策検討がされ,半年あまりの審議でこの案を出すという性急さが気にかかる.そんなに性急に結論が出せる問題なのだろうか.何をあせっているのだろう.他の分野と同様に,とにかく障害福祉の「財源が無い」「財源が無い」と国から声高に叫ばれるのだけれど……

たまたま1人の人間が障害や疾病を持ったがゆえに,大きく生き方に制約を受けてしまうこの世の中.だが,どんな状態であっても1人の人間として「健康で文化的な最低限の生活」を送り,「私らしく生きたい」ということは,決して過ぎた贅沢ではない.それを保障するのが,障害福祉制度の根幹だったはずだ.今回の案がどうなっていくか,まだ分からない.だが,「私らしい生き方」を阻むものになっては本末転倒だろう.
「私らしい生き方」を決めるのは私のはずだけど,それを阻むものは何か.その基本的な視点で,めまぐるしい情勢の変化の背景を見たい.「私らしく生きる」ためには,他人事などない.

やどかり出版の本一覧:版元ドットコム

1人1人が大切にされるところから

近頃は,建前の裏側にある本音を,隠すことなく堂々と行える世の中になったのでしょうか.
政策や施策の理念と内容のギャップをそのままに,どんどんいろいろなことが押し進められていってしまっていると感じます.

同僚や一緒に仕事をする人たちには,精神病院での「社会的入院」を経験している人がたくさんいます.ほんとうは退院できる状態であるにも関わらず,社会的な諸事情により,ずっと精神病院に入院している状態です.いまだ40年近くを病院で過ごしている人も,全国各地にいます.
この「社会的入院」の問題には,さまざまな原因が絡んでいます.根底には,国の精神「障害」者に対するこれまでの施策や,それに沿って形作られた精神医療システムの問題があります.基本的に,「社会防衛」の視点から,精神「障害」者という存在が政策上扱われてきたことが,今の状態を生み出しています.

新障害者プランで精神障害者保健福祉施策の推進が重点課題として挙げられ,「今後の精神保健福祉施策について,入院医療主体から,地域保健・医療・福祉を中心としたあり方への転換を図る」とあります.
おおよそ34万人の精神科への入院者のうち,社会的入院者は少なくとも3分の1を占めると言われています.施策の中では,10年かけて7万2千人の「社会的入院」者を退院させ,地域生活へ移行させると謳っています.しかし,「社会的入院」者は,数十年も,自分の思い通りにならない生活を送らざるをえなかった人たちです.さらに10年待てというのでしょうか.
何十年も「社会的入院」をしてきている人は,とうぜん高齢になっています.60代後半,それ以上の年齢の人も多いはずです.身体が動くうちに退院したいと思うのは,とうぜんのことでしょうが,10年という期間はそれを考慮しているのでしょうか.もっと言えば,7万2千人の人たちが,生きているうちに退院できる期間なのでしょうか.
また,「社会的入院」が今なお解消できない理由の1つには,地域での支えがひじょうに乏しいことがあります.地域生活を支えるような拠点は,他障害と比べても,特に少ないのです.今年度,そのための施設整備費は大幅にカットされて,わずか14.8%しか新規の地域施設が認可されませんでした.その理由は「予算がない」ということでした.「入院医療主体から,地域保健・医療・福祉を中心としたあり方への転換を図る」という施策の基本と逆のことではないのでしょうか.

その一方で,池田小学校事件を契機として,いわゆる触法精神障害者の処遇法案「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」が先日7月10日に衆議院本会議で可決,成立しました.何度も「保安処分」絡みの問題が指摘されて,話が出ては立ち消えてきた法律です.関係団体で賛成しているのは,日本精神病院協会のみでした.
犯罪の再犯防止のために,「再犯の恐れ」があれば,実質無期限に特別施設への強制入院や通院が課せられるのです.例えば,該当者も,再犯の判定方法も,判定基準もあいまい,そもそも精神障害者の犯罪だけを特別に扱う意味はあるのか,などというような,実にさまざまな問題を含んだまま押し通されてしまいました.
「刑務所には刑期があるけれど,精神病院にはないんだよ」という同僚の言葉が,改めて思い出されます.

「社会的入院解消のための退院促進支援事業の実施」のための予算は4,400万円.「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に関する医療体制の整備及び必要な人材の養成」には,36億7,700万円という現実に,何のために国の政策というものは作られていくのか,考えざるを得ません.しかも,36億 7,700万円という予算は,法案の審議中にすでに立てられていたものです.

自分の現場に近いところからみる政策の不可思議さについて長々と書きましたが,全体の政策の中で起こっている矛盾の一部分に過ぎないでしょう.
こんな時,立ち戻るところは,やはり同僚たちの経験であり,それぞれ違う人間1人1人が,人間として大切にされることを起点にして物事を考えたり,行動したりしなければいけないという点です.それがなければ,どんな政策も施策も意味がないどころか,人の人生や命を奪ってしまうものになると感じています.

蛇足ですが,私の同僚たちの経験は『やどかりブックレット・障害者からのメッセージ』シリーズに収められています.どうぞ参考になさってください.

22年間の重み

 22年という時間は,人の人生にとってどれほど重みがあるのでしょうか.少なくとも,一口では語りきれません.赤子が若者へ,青年が壮年になれるだけの時間です.
よくいっしょに仕事をする方で,その22年間を病院の中で過ごした人がいます.
彼は,つい3年前まで,民間総合病院の精神科の閉鎖病棟で「生活」していました.退院してしばらくの間,
「22年間は夢のように過ぎました.病院には,たいへんお世話になりました」
と話していました.
3年が経った今,彼は22年間をこう表現します.
「あそこでの生活は,地獄のようでした」

辰村さんは,23歳で統合失調症(精神分裂病)を発症し,4回の入退院を繰り返してきました.4回目の入院が,22年間でした.今,65歳ですので,人生の3分の1の長さをそこで過ごしたわけです.そして,今もなお,辰村さんの入院していた病院には,30年以上の長期入院をしている方が何人もいます.住む家がない,働く場がない,安心していられる場がない,生活を手助けできる人も機関もない……といった社会的制約のために退院できない.そんな人たちが,全国には7万人以上いるとも言われています.
辰村さんの22年間の体験は,何度聞いてもさまざまな感情が湧いてきます.病院の中で労働力として使われていたこと,入院患者宛の手紙は必ず1度封が開けられていたこと,他の患者が外に電話をかけるときは内容を聞いて報告しなければいけなかったこと……
発病した彼に降りかかってきたことは,社会の仕組みや考え方によって起こる,さまざまな矛盾でした.無数にある病気の中の1つにかかっただけで,とたんに自分の思うように生きられなくなり,「普通に」生きることさえままならなくなる社会……彼の体験談は,「何となくうまく生活できている」うちは見過ごしがちな社会の矛盾を,鮮やかに浮かび上がらせる力を持っています.今,1人の人間として自分の生き方を貫ける状態にある人は,どれほどいるのでしょうか.

最後に宣伝です.「専門家の書いた本は多数あれど,当事者の視点から書かれた本は少ない」という問題意識からつくり始めた「やどかりブックレット・障害者からのメッセージ」シリーズがあります.そのシリーズの8番目『精神障害者 新たな旅立ち』に,辰村さんが語った22年間がまとめてあります.辰村さん自身も,このブックレットシリーズの編集委員の1人として,企画や取材活動に携わっています.22年間の重みの一端を味わいたい方は,ぜひご覧になってください.

精神障害当事者の体験を通して

 やどかり出版は,埼玉県の精神障害者福祉工場・やどかり情報館の出版部門です.他に,印刷,研究所があります.病気を持つ人間・持たない人間が,共に働き,その仕事のプロフェッショナルを目指して,各々邁進しております.

 専門家の書いた本は多数あれど,当事者の視点から書かれた本は少ない……精神障害当事者ならではの情報を発信していく基地にしていきたい,という思いで始まった私たちの小さな活動から生まれた本の紹介をします.

 「やどかりブックレット・障害者からのメッセージ」というシリーズを作り始めたのは,やどかり出版文化事業部の体験発表会がきっかけでした.体験発表会は 1997(平成9)年から,1年に数回のペースで現在までに20回行っており,これからも続けていきたい事業のひとつです.「障害を持ちつつ生きる」ということには意味があるとここで働く私たちは考えています.その体験を語ることで,障害のある・なしにかかわらず他者に何か提供できるものがあるはずだ,という思いで自分たちが働く建物を会場に行ってきました.
 体験発表会はその日,その時間かぎりの出来事にすぎません.しかし,より多くの人たちに自分たちが大事にしていることを伝えたい,特にいまだ精神病院に長期入院している人たちや,病気を抱えて孤立している人たち,また,地域で孤立して生きている人たちに絶望することはないんだということを伝えたい.そういった話し合いから,このブックレットシリーズが生まれました.

 2002(平成14)年4月現在,やどかりブックレットは7冊目を数えました.障害当事者自身の声を中心に内容をまとめる姿勢は変わっていませんが,体験談だけでなくテーマをしぼって意見を出すブックレットも作るようになりました.

 そして,7冊目は「地域で私たちが生きるために 心の病をかかえて」というタイトルで,練馬区共同作業所連絡会学習会実行委員会とやどかり出版との連携で作りました.前述の学習会実行委員会主催の講演会で,3か所の作業所の3名の当事者が語った体験と,講演会の実行委員の座談会をもとにして構成されています.講演会を皆の手で企画し運営する過程そのものにも,さまざまな学びがあり,日常,近くで活動しながらも行き来がしにくい作業同士の結びつきも深まりました.具体的には,喫茶の共同運営を行うようになったり,日常の活動での連携につながるようになりました.講演会発表者自身だけでなく,講演会に関わる人びとが元気づけられ,変わっていく様子がこのブックレットから少しでも伝わればいいと思っております。