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韓国映画『大統領の理髪師』

 先月、初めて映画の試写会というものに行ってきた。といっても、私が招待されたわけではなく、ある人が「今晩、韓国映画『大統領の理髪師』の試写会があるのだが、私はどうしても行けない。誰か行く人はいるか」というので、どんな映画か知らないが、タダで映画を見られる機会を、みすみす逃すはずもなく、すかさず「わ、わたし、行きます!」と手を挙げて、今日中にかたずけようと思っていた仕事をほっぽりだし、試写会会場へと急いで出かけていった。
 でも正直、「タダ」ということで勢い込んできたものの、最初はどんな映画か不安であった。ところが、ところが、オープニングから最後まで、ユーモアあり、涙あり、また涙ありと、ホントいい映画だったのだ。私などボロボロ泣いてしまった。(30過ぎの男が肩をふるわせて一人で泣いてる姿はさぞかし異様だったことだろう)

 というわけで、せっかくの試写会に行く機会を与えてもらって、久しぶりにいい映画に出会えたのに、私一人が泣いたというだけではもったいないので、僭越ではありますが、この場を借りて、この映画の宣伝を少し。
 まず、時代は1960年代初頭から1970年末までの約20年間、激動の韓国現代史が舞台だ。家族を愛するごく普通の真面目な床屋が、ひょんなことから朴正熙大統領の理髪師になってしまうという設定。この間に不正選挙、クーデター、暗殺と歴史的な事件が次々おこるわけだが、そのつど、主人公の理髪師は国家権力に振り回されて滑稽なほどオロオロしていく。それが理髪師の子どもの目をとおしてユーモアたっぷりに語られる。(またこの理髪師を演じるソン・ガンホがいい。昨今の韓流スターのような二枚目ではけっしてないけれども寡黙で真面目、だけどちょっとほっとけない父親を好演している)
 リアルタイムでこの時代に青春をすごした世代の方々はもちろんノスタルジーを感じておおいに楽しめると思うが、実はこの映画の監督は69年生れなのだ。韓国の厳しい時代の史実を題材にして、歴史は苦手というような20〜30代の同世代にこそ、「過去」を振り返り「現在」をどう生きるかメッセージが託されているのだと思う。
 政治とは関わりなく、ただ一生懸命に働き、家族を愛し、誠実に日々を生きようとする庶民にも国家権力が否応なく介入してきた暗い時代のハナシ。でも今、某国のブッシュ大統領は世界中を恫喝し、グローバリゼーションの名のもとに急速に世界は変わっていく。小心者の一庶民である私としても、生活と権力について考えずにはいられなくなのだ。

この映画、来春ロードショーということです。
韓流ブームは相変わらずですが、その中でもオススメです。(だと思います。「冬ソナ」など見ていないので何ともいえませんが)
是非ご覧ください。

ある世論調査が教えているもの

 イラクに自衛隊を派遣しようという。そして、もっともっと「国際貢献」するために憲法改正するべしという声は、今やそれが当然のように政治では議論されています。憲法9条も風前の灯火という感があります。私は今、30代ですが、よもやこんな時代がくるとは思ってもみませんでした。
 では、護憲・改憲のバランスが「いつ」から崩れたのかでしょうか。「9.11」以降ではないかと言う人もいます。そうかな、と漠然と思っていました。
 しかし、ここに偶然目にしたひとつの世論調査があります。1992年と2002年、10年間を対比しています。調査では「あなたは、今の憲法を改正する必要があると思いますか、それとも改正する必要はないと思いますか」と尋ねています。「改正する必要があると思う」が10年前の92年は35%、02年は 58%。一方、「改正する必要はないと思う」は92年は42%、02年は23%に減少しました。この10年間に大逆転があったことを示しています。しかも、その中で注目すべき特徴は、30代が逆転をリードしているという事実です。憲法改正派の折れ線グラフを右肩上がりに押し上げているのは私と同世代の人たちだというのです。高齢層はむしろ逆転にブレーキをかける役割を果たしているという点があります。戦争を知らない世代と知っている世代の差でしょうか。う〜ん。
 いずれにしても、ハサミ状の2本の折れ線グラフは、93年から94年頃に交差し、以降はそれぞれ上方、下方に向けて離れていく一方のように見えます。この10年間に何があったのか。とりわけ私と同世代の人たち、30代から40代に至る人たちが、これまでの「常識」、少なくても私の中にある「常識」が覆るような、どんな出来事があったのでしょうか。
 バブルとその崩壊、冷戦の終結、湾岸戦争、阪神大震災、新しい歴史教科書、等々さまざまな劇的な変化はあって、どれも衝撃を受けたのですが、ただ、街にはモノがあふれていましたし、私自身は、酒、タバコ、ギャンブル(弱いけど)もいっぱしに覚えて、お気楽に過ごした10年でもありました。「なんか先行きがあぶなくなってきたなぁ、大丈夫かなぁ、でも、まだまだお気楽に過ごしたいなぁ」そんなお気楽な脳みそに、戦争がしたくてたまらない改憲派が、そっとすりこんできたのでしょうか。ある世論調査の結果についてそんなことを考えていたら、どこかの都知事がイラクで自衛隊が攻撃されたらという問いに対して「反撃して、殲滅してしまえ!」「日本軍は強いんだ!」と叫ぶのをテレビで見て、その後ろに300万の有権者の支持があるのかと思うとブルッときて背筋が寒くなったと思ったら本当に風邪をひいてしまった31才の誕生日の夜でした。

ごく私的な最近の出来事

 米軍がイラクに侵攻しバグダッドが混乱のさなか、私の子どもが生まれた。体重2860グラムの元気な男の子であった。03年4月5日の朝。私の誕生日が12月3日。私はイチ、ニ、サンッで生まれ、息子はサン、シ、ゴッと生まれたわけだ。
 もちろん、いつ果てるか分からぬ零細出版社に勤めている身を思えば、将来にはかなり不安があり、あまりにも小さい手を見て感動しつつ、ようし何が何でもがんばるぞっとか、生来があまりがんばることをしなかったナマケモノの私も決意をしたり。風呂で私の背中を流す時「父ちゃんの背中はでかいな」なんて言ったりするのかな、とかキャッチボールはいつになったらできるだろうかとか、そんなことばかり夢想してしまう。
 しかし、イラクを見てみる。アメリカの精密爆弾によって大勢の市民が犠牲になった。たぶん、かの地でも私の子どもと同じ時に産声を上げた命はいるはずである。そして私と同じように子どもに希望を見いだし、決意を胸にした親もいるのだろう。そんな願いのうえにミサイルは落ちてきたのだろうか。
 私は「どんな戦争も悪である」と信じてきた。だが今、国益のためならば戦争も支持する。やられる前に相手をやっつける、という風潮が公然と語られ、世を覆っている。劣化ウラン弾によって死を待つしかない子どもたち、腕や光を失った子どもたち。これが許されるのか?
 世界中の何千何万という反戦の声があったって、戦争はおこる。改めて自分自身の精神を鍛えて臭い風潮に対抗できる、いやせめて我が子に伝える言葉をもたなくては。

誰も知らない……

 昨年、11月発行した『誰も知らない円形脱毛症』が先日、読売新聞の家庭欄に紹介され、反響をよんでいる。
 一般的に円形脱毛症は頭髪の一部が円形状に抜け落ちて、やがては生えてくると思われているが、人によっては幼児期からまゆ毛やまつ毛、ヒゲなどの体毛全てが脱落してしまうこともあるということは、あまり知られていないのではないでしょうか。
 命にかかわる病気ではないし、「放っておけば生える」と思われているので、周囲から軽く見られがちで医学界でもなかなか研究が進まず、未だ原因も治療法も確立されていない。しかし人と明らかに異なる容貌になるという苦しみ悩みは計り知れない。
 本書は円脱患者自身が素直にその悩みをつづった手記が中心で「ひとりで悩まないで」というメッセージと社会に対する理解を訴えている。

 さて、新刊では2月下旬に『米軍「秘密」基地ミサワ』を刊行する。青森県三沢基地はこれまでにも核保有疑惑がもたれていたが、その事実を新聞記者の執念の取材で明らかにしたものだ。また、三沢基地は核保有だけでなく米軍のアジア・中東に対する中心基地として情報戦や補給地として重要な役割を果たしている。先の湾岸戦争やあのアフガン報復戦争でも三沢からサウジアラビアへ戦闘機が飛んでいる。

 小社はこれまで様々な分野、事柄を題材にした出版を続けてきた。縦横無尽といえば聞こえがいいが、小社のような零細出版社では一人で全く違う分野の二つ三つの本を同時進行で編集、営業までこなしているのが実情。正直、脳味噌のチャンネルを変えるのに苦労している。
 だが、その一つひとつが重要な問題提起を投げかけていると考えているので、めまぐるしい日常を右往左往しながら奮闘している。
 情報化社会といわれている現代。クリックひとつで全てがわかるような錯覚があるが知られていない現実、忘れ去られた過去を掘り起こす出版活動を続けたい。