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僕と本が生きる出版流通(2004年版)

僕には折々に読み返す文章がある。自分で書いたものだ。
「いける本いけない本」という冊子に寄稿したそれをつい先日も思いおこした。栗田出版販売が破綻し太洋社が自主廃業を表明したいま、自らの仕事を見直す意味もこめて、ここに転載したい。
そして、版元日誌を担当する次の機会があれば「僕と本が生きる出版流通(2016年版)」を記すつもりだ。

――以下、「いける本いけない本 創刊号」2004年12月、ムダの会発行より(※の注は、2016年2月に追記)――

僕と本が生きる出版流通

 買って後悔しない本をつくり、売って喜びを得られるような本を流通させる。こんな商業出版が僕たちの理想だ。
 僕は常勤3人の小さな出版社、トランスビューの創業に参加するまで、日本で一、二の歴史を誇る老舗版元の営業部員だった。ここで6年間、10時から5時まで書店さんへファックスを流し注文を頂き、電話をしてその本を店頭から切らさないようにお願いをした。そして新刊のできる前日には、注文を採りきれなかった書店の棚を想像しながら、ときには徹夜で配本(いま、僕はこの言葉を使わない。理由は後ほど・・・)リストに部数を記入していく。これが僕の仕事だった。そうこうしているうちに、初版の在庫がなくなり重版をすることも多かったように記憶している。ただし、全体の返品率は40%近くにも昇っていたけれど。
 ある日、書店の方[※1]に言われた。「おたくの本はいい本だけど、あんまり売れないよ」。実際、部数は捌けなかった。それでも毎回注文を出してくれた。そして、お客さんの顔を思い浮かべながら棚を作り、注文分はたいてい売り切ってくれたように思う。ただ、僕は内心、心苦しかった。僕のいた出版社の卸値では、このベテラン書店員さんが丹精込めて売った本が、たったの16、7%のマージンしか生み出さないと知っていたから。
 簡単に出版流通過程のマージン体系を説明しておこう。いま、新規の出版社から取次会社への卸値は、定価の62~67%。取次から小売店へは、平均して78%程度だそうだ。
 一方トランスビューは、小売店への直接卸しを販売の中心ルートとしている。卸正味は70%が基本だ。物流経費が約5%、入金管理の対象となる取引先が、毎月300~400件あるので、その管理費用を控除すると、取次ルートと比べてそれほど歩が良いとはいえない。
 ただし、「注文品の入荷が遅い、不確実」「異常な返品率」「書店マージンの少なさ」という数十年来いわれ続けた書籍流通の問題点は、部分的ながらも解消されたと思う。
 納品は近年ぐっと安価になった宅配便だ。客注一冊でも、正午[※2]までに注文を受ければ、たいていは当日中に出荷ができる。もちろん、納品送料等は版元負担だ。代金支払の振込票に、「早速に送ってくださり、ありがとう」なんて一筆があると、田舎の本屋の女将さんが、お客へ得意顔で本を手渡す顔が想像できる。僕のほうまでも、顔がほころんでくるというものだ。
 もうひとつ、これも長年業界を悩ませている返品率が、こちらの予測をはるかに下回る数字となっている。理由は、トランスビューの出荷はすべて、小売店のオーダーに基づく納品だということ(かってに送りつける“配本”ではないのだ!)。納品スピードが速いので、小売店が過剰なストックを持つ必要がないということが挙げられる。ということで、もともと長期間販売することを前提とした企画をモットーとするわが社としては、在庫が少なくなれば即重版、じつに気楽に決定を下すことができる。
 出荷のすべてがオーダーに基づくということ、物流経費が高いということは、編集・営業の両方において、これまでにない良い緊張感を生んでいる。返品の穴埋めに、編集者は新刊ノルマを課せられることなく、腰を据えて本づくりできる。営業担当者は人の好い書店員さんをだまくらかして、無理な売上げを作らないですむ。通常であれば、編集者はバンバン企画を出して本を作り、営業担当は、ガンガン番線(注文)をとってきて、ブックフェアなんかも派手にやると、けっこうカッコ良く見えたりするのだけれど、そうではないのだ。
 もちろん良いことばかりではなく、すでに視野にある課題や、僕たちの気づいていない落とし穴もあるだろう。ただ、僕たちにとって「トランスビュー方式」が編集・販売の両輪において、自浄効果をもたらしていることは間違いなさそうだ。
 三年半まえに「新しい会社では、直取でやるつもりだ」と、業界の先輩友人に話したときは皆反対したけれど、とにかく出版社がこの方法でやっていけることは実証した。
 えらそうな事をいっても、直接取引なんて小売現場の事務が増えるだけじゃないか。というお叱りも聞こえてきそうですが、そのあたりは小売店の皆様のご要望・ご意見を伺いながら協力して、本の個性を生かせる流通形態を作ってゆきたいと考えております。
 
[付記]トランスビューの書籍は取次ルートでも流通しています。ただし返品はできません。返品コストは取次店さんの流通マージンを圧迫しますので。

[注]
※1 この書店員さんはその後退職した。
※2 現在は、18時までの受注を原則として当日出荷。

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