アテネと感動
アテネオリンピックで日本人選手が活躍している。メダル獲得数も過去最多となりそうということだ。テレビや新聞で報じられる選手たちの姿に、思わず応援もするし感動もしてしまう。何度も繰り返される報道で、上位入賞して注目される選手の過去や周辺の裏話を知ると、勝利の瞬間の映像とともに目頭が熱くなりさえする。我々がそうした非日常の感動を求めているかのようにでもあるし、マスコミも意図して多くの紙面や時間を費やして報道している。それはそれで良いのだが、一方で原発の点検漏れ事故や、沖縄の大学への米軍ヘリ墜落など、大問題があまりにも小さく扱かわれていることに危惧を感じずにはいられない。
さて、岡山には「後楽園」という約300年前に造られた大名庭園がある。国指定の特別名勝で、金沢の兼六園、水戸の偕楽園と共に日本三名園の一つに数えられる。4年前に、小社から『岡山後楽園の四季』という写真集を発刊した。今でも少しずつではあるがコンスタントに売れている作品だ。
この写真集に掲載している写真を、撮影者の難波由城雄氏が横幅約2メートルに拡大した大きなパネルを約20点作成し、これまで岡山県内をはじめ、京都や名古屋、東京など小さな会場で写真展を開いてきた。そして、今年の初夏、海を越えてオランダのチルズブルクという町の市立図書館の一室で開催された。こうしたどの写真展も、写真集を見て感動した人たちのお世話で開催されてきた。
オランダの写真展も、1年ほど前に、後楽園の側にある土産物店でこの写真集を見たオランダ人が「ぜひ自国で後楽園の写真展」を、ということで開催になった。 20点の大型パネル写真を展示した会場には多くのオランダの人が来場し、日本から持って行った写真集も完売した。「日本の庭園美を初めて見て、感動されていました。涙を浮かべながら見ている人もいて、日本人と感性が違うのかもしれない」と、会場に行った難波氏が話してくれた。
日本固有の文化を紹介したもので、日本語の文字のない写真集ということで、海外に出ていったこの写真集。掲載している写真の作品力が国を越えて人を動かし、写真展の開催という形で広がっている。難波氏は、「あの写真を撮ったとのは、何かに動かされて撮らされていたのだと思う。今、撮れと言われても、もう撮れないよ」と言う。スポーツも文化も一途に頑張る人を誰もが応援し、感動が人を動かすのだと思う夏であった。