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おれおれ詐欺

最近巷で「おれおれ詐欺」なる新手の詐欺が横行している。
テレビや新聞で取り上げられたりすることも多い。
まさか自分の身内にその悪の手が及ぶとは思ってもいなかった私は、その日、日販に見本出しを終え、コンビニで買った昼飯のスパゲティ・ナポリタンを一人寂しく食し、その後にやってきた眠気と戦いながら、ボーっと昼休みのひと時を過ごしていた。
そんな時に突然悲劇は訪れたのである。
私の携帯電話の「Xファイル・着メロ」が鳴り響き、昼下がりの気だるいひと時から目覚めた私は液晶画面に写る「姉」という発信者の文字を見た。
「うーん・・こんな時間に姉貴から電話とは、いったいなんの話かな・・」
電話に出ると、聴こえてくる第一声は姉ではなく姉の旦那の義兄からだった。
「大丈夫?俊ちゃんが事故にあったって、今お父さんから電話があったけど・・」
“俊ちゃん”とは私のことであるが、始めは義兄の言ってることがよく理解できずにいた。
「なんかお金がいるから、すぐに58万振り込んでくれっておばあちゃんに電話があったって・・」
と義兄。
私は無傷で、こうして眠気と戦っている・・
「事故!?・・・僕がですか?」
「そう」
「いや・・・事故なんてあってないですよ。今は仕事で神保町にいますけど・・・」
「え・・」
「事故にあってないの? 今お金を振り込みに、おばあちゃんが銀行に向かったらしいけど・・」
「それって・・ 詐欺!」
義兄は「分かった!なんかおかしいと思ったんだけど、すぐにお父さんに電話する!」
と義兄は電話を切った。
どうしようかと、思案し始めた私の携帯電話がまた鳴った。
義兄は父に、さっきの電話はどうやら詐欺らしいと伝えたとのこと。
それを聞いた父は、銀行に向かった祖母を止めに家を飛び出したらしい。
果たして間に合うだろうか・・
父も祖母も携帯電話を持っていないので連絡の取りようがない。
先に銀行に電話して銀行員に祖母を止めてもらおうかと思い、祖母が預金を預けていると思われる銀行の電話番号を104で聞いた直後、また携帯電話が鳴った。義兄からである。
「お父さん間に合ったらしいよ!なんとか振り込む寸前で追いついたらしい」
なんとか間に合ったらしい、58万という大金は無事だった。
ホッとした私は義兄に何度も礼を言って電話を切った。

祖母はもう86歳という高齢である。電話をかけてきた詐欺野郎は「俺だけど今事故に遭って、すぐにお金がいるんだよ、今から言う口座に58万振り込んでくれよ・・」と、今にも死にそうな声を出して祖母を見事に騙したらしい。声が私に似ていたのと、かわいい孫が事故に遭ったという報せに気が動転してしまった祖母は疑うこともなく、その詐欺野郎を私だと信じてしまったらしい・・
祖母が驚いて、私のことだけを思って一目散に銀行に向かった姿を思い浮かべるとそんな卑劣ことをする詐欺野郎に、ますます怒りがこみあげてきた。

私の声を真似ていたということは、私の知り合いだろうか・・・
私は想像したくないが、何人か思い当たる怪しい人達の顔を思う浮かべた。

すぐに警察に通報したが、相手の口座から犯人を割り出すのは難しいかもしれない。
向こうも当然そんなことは想定して犯行に及んでいるはずだから。
まあとにかく実害を被らずに済んでよかったが、なんかやり場のない怒りを私は何処に向けたらいいものか・・

詐欺師君!どうせ騙すならもっと違う世界の人間にしてくれよ!
働かなくても金が入ってくる資産家とか、もっと金持ちをターゲットにしてくれ!
庶民にとっては、こんな時代、金を盗られるのも、年老いた祖母に心配かけるのも、辛すぎるぜ!

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